東京オリンピック・パラリンピックの競技施設におけるアクセシビリティについての学習会に参加しました

March 13, 2015

 

3月4日、国会議事堂の目の前にある衆議院第一議員会館にて、DPI日本会議および全脊連の共催による学習会に出席しました。

 

現在、2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックの国内組織委員会が中心となり、大会における施設およびその周辺環境のバリアフリーの基準を定めた、「アクセシビリティガイドライン」の策定が急ピッチで進められています。しかし、その内容がバリアフリーの世界基準である国際パラリンピック委員会(IPC)が作成した「IPCアクセシビリティガイド」と比較して、基準を満たしていない可能性が高く、国会議員の方々や、全国の関係機関、障がい者の方々にその基準を知っていただき、内容改善を訴え、障がい当事者の立場から提言することを目的に、今回の学習会は開かれました。

 

日本国内における競技施設のバリアフリー化は、他の先進国と比較しても遅れている部分が多いなか、それぞれの障がいの特性に合わせた合理的な配慮がふんだんに盛り込まれたIPC基準はその理想的なガイドラインであると言えます。

 

たとえば、競技場等の観覧席に設けられる車椅子席は、隣り合わせに同伴者席(コンパニオンシート)を設けることとされています。この同伴者席とは日本で言う介助者席ですが、介助者は「アシスタント」ではなく同伴者「コンパニオン」として、“ともに楽しみを共有する存在であること”が重要とされていることが大きな特徴です。

 

また、車椅子用の席の数も、日本では法的な設置義務がないものの、IPC基準では総座席数に対して一定の席数が確保されているのも特徴です(オリンピックの場合は、総座席数の0.75%以上、パラリンピックの場合はその競技内容に応じて1.0%~1.2%以上、同伴者席も並列に設置し同数以上とする)。また、観戦すること以外にも、会場までのアクセス、競技場内の移動、店舗、チケット売り場、トイレ、エレベーター等、全てがバリアフリーで統一され健常者と障がい者が分け隔てなく平等に利用できるつくりになっています。

 

もうひとつ、日本にはない特出した基準として、競技観覧中の車椅子席の「サイトラインの確保」というものがあります。この「サイトライン」とは視線のことで、競技を観る上でその視線を遮るものがないように配慮された席を確保するという意味です。たとえば、競技で盛り上がるとき、前方の観覧者が立ち上がった場合でも車椅子観覧者の視線が遮蔽されることなく観覧できるように一定の高さで席を設けることや、柵や手すり、その他の障害物が視線を遮らないような設計にすることが含まれています。

 

  〔サイトラインの確保とは、車椅子利用者が前列の人と同等の視線・視野を確保する設計にすることである〕

 

学習会では東洋大学の川内美彦先生によるIPCアクセシビリティガイドの説明に引き続き、DPIの今村登氏による米国視察の報告も行われ、バリアフリーの比較例として一昨年に改修工事がされたばかりの日本の東京体育館と、米国ニューヨークにあるヤンキースタジアムにおける、それぞれのバリアフリー状況が紹介されました。

 

 

サイトラインの確保に関しては、東京体育館の場合、車椅子席の目の前にアクリルパネルと手すりが目線の高さにあります。また前方の通常席の観客が立ち上がると競技場は完全に見えなくなってしまいます。一方、ヤンキースタジアムの場合、視線に遮蔽物はなく、前方の観客が立ち上がっても全く視界をふさぐことなく球場全体が見渡せるように、一段高いところに席が設けられています。

 

                〔東京体育館の例〕

        写真A:前方のアクリルボードと手すりが視界に入ります

        写真B:前の人が立ち上がると会場が見えなくなります 

              〔ヤンキースタジアムの例〕

        写真C:前方に視界を遮るものがなく会場全体が見渡せる

   写真D:前列から一段高くなっており、前の人が立ち上がっても視界に入らない

 

車椅子用の座席数に関しても、東京体育館が29席なのに対して、ヤンキースタジアムはなんと506席、同伴者席も530席並列に確保されているのは圧巻です。しかも東京体育館の専用席は一部の特定エリアのみですが、ヤンキースタジアムでは球場を取り囲むようにして一階にも二階にもちゃんと席を確保しているので、自分の希望する角度、視線でゲームを観戦することが出来るようになっており、まさに健常者も障がい者も“平等”に楽しむことができる理想的な設計と言えます。

 

サイトラインに関してはほんの一例ですが、ヤンキースタジアムでは視聴覚障がい者や妊産婦、高齢者への配慮など、施設内至る所にバリアフリーが徹底されており、今後の日本で行われるオリンピック・パラリンピック大会のガイドライン策定を進める上で模範になる施設であると感じました。

 

東京オリンピック・パラリンピックは国を挙げての一大イベントです。今回の学習会はそのバリアフリー基準に関するものでしたが、国内の障がい者にとっては、何よりもこれを契機に日本のバリアフリー法が見直され、人々の意識転換につながる貴重な大会になるものではないかと期待を寄せています。しかし、障がい者団体および当事者は、その推移を見守るだけではなく、今回の学習会等を積極的に開催し、政府主導で進められるガイドライン策定の内容をしっかりと把握・精査して、自分たちの主張をしっかりと国に訴えかけていくべきであると思いました。

 

日本が批准する障がい者権利条約の目的は「あらゆる障がいのある人の尊厳と権利を守ること」とされており、なかでも障がいに基づく差別をなくす為には、「他の者との平等を基礎とする」ことが重要であるとされています。東京オリンピック・パラリンピックの開催は、まさにこれらの理念を、ひとつのスポーツ大会を通して具現化するための起爆剤になるのではないかと思います。

 

大会に向けたこれからの取り組みによって社会全体の意識を変え、よりインクルーシブな社会を実現していくことが重要なのは言うまでもないですが、そのためにはまず、障害を持つ当事者自身がしっかりとした問題意識を持ち、知識を身に付けたうえで自分の考えや意見を表明し、主張できるようになることが何よりも大切ではないかと思います。

 

今回の学習会に参加して、バリアフリーとは、障がい者にとっての物理的な障壁をなくすことだけではなく、健常者と障がい者のあいだにある見えない壁(バリア)をなくしていくことでもあると感じました。その意味では、私的な願望ではありますが、将来オリンピックとパラリンピックが別々のくくりで開催されるのではなく、すべての人が参加する「ひとつのスポーツ大会」として実現できれば、これほどの“バリアフリー”はないと思います。

 

※画像・資料提供:STEPえどがわ 今村登様

 

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